ジェントリフィケーションの功罪を考える。捨て去るべき"モノ"と残すべき"コト"とは。

川村 健治

先日、MIYASHITA PARKに行ってきました。渋谷区立宮下公園が、区と三井不動産によって複合商業施設として開発されたものです。プレスリリースでは下記のようにコンセプトを語られています。

“「ミヤシタパーク(MIYASHITA PARK)」は、全長約330mからなる“低層複合施設”。街区全体を4階建ての公園に見立て、どこにいても公園の心地よさを感じられる空間作りを目指す。商業施設全体は、緑の天蓋で包まれており、自然の風と緑を感じられる設計に。訪れるたびに新しいヒト・モノ・体験・文化に出会える場所を目指し、公園・商業施設・ホテル・駐車場を一体化させた。”

出典:(「ミヤシタパーク(MIYASHITA PARK)」宮下公園×商業施設×ホテルの新スポット渋谷~原宿に:FASHION PRESS

かつて宮下公園は、「ホームレスが多い公園」「スケボーカルチャーの中心地としての公園」という位置づけでした。裏手にあるタワーレコードには数えきれないくらい行きましたが、この公園に近づくことは私の15年の東京生活の中で一度もありませんでした。少し怖い印象があったからです。このプロジェクトの歴史は、約10年に渡るホームレス排除とは切っても切り離せないようです。今なおホームレス排除のシンボルと考える人も少なくありません。

SNS上ではまさに賛否両論。様々な意見が飛び交っています。

“同公園は、「ホームレス(野宿者)排除」をめぐる歴史の地でもあり、街の多様性について物議を醸してきたことでも知られる。

(中略)

じつはこの開業の背景には、渋谷区による宮下公園の「野宿者排除」を巡る紆余曲折の歴史があり、SNS上では今もさまざまな批判の声があがっている。“

出典:(渋谷・宮下公園跡地に「ミヤシタパーク」開業 —— 10年に及ぶ“ホームレス排除”の歴史を振り返る:BUSINESS INSIDER

いずれにしても、一つのカルチャーが排除され、そして新しいカルチャーが生まれようとしているわけです。再開発や高所得者層の流入による都市の富裕化は「ジェントリフィケーション」と呼ばれます。これには良い面があれば、悪い側面もあるかと思います。渋谷に限って言えば、スクランブルスクエア、渋谷パルコ、渋谷フクラスなど、次々と高層商業施設が開業する渋谷の中で、若者の街と呼ばれた渋谷がどんどんと失われていってしまうようなそんな寂しさを覚えます。

ハッキリ言えば、MIYASHITA PARKの飲食店で食べたランチは高単価なお店が多く、入居している店舗はハイブランドばかり。ホームレスだけでなく、若者カルチャーも排除しようとしているのかと感じてしまい、少し寂しくなりました。

再開発という言葉に潜む破壊行為。街の価値は如何に…?

マンハッタンの風景

ブルックリン橋(写真:makoto.h/photoAC)

私が知っている1990年代以降だけ見ても、渋谷は常に新しいカルチャーの発信地でした。レコードショップを中心とした渋谷系と呼ばれる音楽の生態系、チーマーと呼ばれる不良文化、コギャル・ガングロ・ギャル男など全国に瞬く間に普及した流行、スケボー、クラブカルチャーなど、IT企業が集積する街など、挙げればキリがありません。これほどまでに多様なイメージを持った街があるでしょうか?42歳になった私でも、「格好いいお兄さんが自分の知らない何か新しい遊びを教えてくれる」そんな気持ちにさせてくれる街でした。

街の個性がジェントリフィケーションによって失われていくことは、1970年代のニューヨークマンハッタンで多く見られた光景です。元々は賃料が安く芸術家が集う街だったSOHOエリアが、その個性故に人気が高まった場所でした。しかしながら、高級ブランドが増加し、賃料が上がり、最後には高級ブランドだらけの五番街と変わらないエリアとなってしまい、人気も低下してしまいました。結果として、再び賃料が下がるという循環が発生したことは、よく知られる事例です。

同様の懸念を抱かずにいられない街がもう一つあります。それは下北沢です。

ここもかつては、狭い路地にショップが集積しておりました。古着屋が多かったので、下北・高円寺と言えば、古着好きのメッカのような位置づけでした。迷路のようにゴチャゴチャと入り組んでいる街並みは、北海道ではあり得ないものですし、ワクワクさせてもらったことを覚えています。

ただ、狭い路地であるが故に火災が発生しても消防車が入れないという欠点を抱えており、都市計画の用語では密集市街地とも呼ばれたりしますが、非常に危険であることも事実です。ただ、この街並みを愛する人は非常に多く、再開発に対する反対運動はかなり活発です。

人命にも関わることなので、個人的な感想のみで語ることはできません。ただし、古くても良いものを残しながら新しいものを受け入れていくことはできないことだろうか?そう思います。歴史的建造物や独自の文化を感じさせるものは、それと同じくらい残すべき大事なものだと思います。それが観光的価値としてより多くの人の職を支えることになるからです。

街にはその土地ならではの独特の雰囲気やカルチャーがあります。街の価値を高めていくためには、街ならではの風景を活かしていくことも必要なのではないでしょうか。

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文:川村 健治

編集:簡 孝充

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