2021-02-16
まちづくり
建物、地域、そして意識のリノベーション〜遊休不動産と人が作り出す可能性について〜
蒲生 寛之
私は函館市で不動産業を営む傍でリノベーションにも携わってきました。私たちが運営するSMALL TOWN HOSTELという宿泊施設も、伝統的建造物に隣接する古民家をハーフセルフビルドで、職人さん達や地域内外の方達と一緒に自由にリノベーションした空間です。
私のリノベーションの解釈を説明させて頂くと、リフォームは元の状態に戻す原状復帰。リノベーションは元の状態よりもさらに価値を高めたり、生み出すことです。その過程で時代に合わせて建設当初の目的から用途変更をしたりする場合もございます。
私の人生最初のリノベーション体験は、子供の頃住んでいた家の和室の押し入れを、両親が小さな部屋に改造してくれた事だったと記憶しています。ただ物を収納するスペースだった場所に、自分の宝物を持っていって秘密基地のようにワクワクする空間が出来上がったのを覚えています。
その後も、子供部屋の壁紙を張り替えたり、ホームセンターで買ってきた木材を組み合わせて棚を作ったり、DIYにも十代の頃から触れてきました。自分にとってのリノベーションとは、既にある物を組み合わせる事で実現する“ちょうど良い自由度の創作活動“のような感覚を持っています。
今回はリノベーションについての記事ですが、私の過去に経験したリノベーションについて、それから地方の街づくりとリノベーションがどう関わっていくべきなのかという視点で書かせて頂きます。
私が経験したリノベーションの面白さと難しさ。それらを通じて感じたこと。
30歳で函館にUターンした時に、勤めている不動産会社でリノベを経験しました。木造賃貸アパートの一室が長らく空室であったことに着目し、現代の様式にアップグレードする事で価値を作り出せないかと考えたのが仕事でリノベーションに関わった初めての事例でした。
この時私は、古くて価値がないと思われている空間と古い物を扱うヴィンテージショップを掛け合わせることでより良い空間を演出できないものか?と考えました。
DIYのイメージ(写真: photo AC)
友人が経営するヴィンテージショップの商品に合うように内装をDIYでアップデートし、工事が終わったらショールームのように商品を並べてオープンハウスを開催しました。結果として開催二日目で申し込みを頂き入居者が決まりました。
古い建物に決して価値がない訳ではなく、使い方の工夫次第で欲しいと思ってもらえる空間になることを実感しました。
簡単な内装やインテリアコーディネイトであれば、専門的な知識がなくても、インターネットで情報収集しながら自由度の高い空間を作ることができます。大きく間取りの変更が必要な物件でも、既に“下書き”(既にある建物)があれば、リノベーション後の姿を想像しやすいものです。また、考える時間そのものを楽しむことがリノベーションの良さの一つではないかと思っています。
一方で難しい点は、建物の状態次第でリノベーションの際に新築よりも費用がかかる場合もあることです。目に見えていない部分は、天井、壁、床などを剥がしてみないとわからない場合も少なくないので、物件によっては計画を立てづらい場合があります。新築であれば平米単価と広さで計画通りに進めていくことができますが、リノベーションは、予想外のこともあるために計画が立てにくい場合が多いです。建物によっては建築当時の書類等が残っていないことも多いからです。
これまで、リノベーションについて色々と述べてきましたが、私の意見としてはリノベという選択肢がより定着していくことに希望を持っています。ローカルにとって必要不可欠なことだと考えているからです。多くの地方都市は人口減少が既に始まっていて、空室も増え続けていきます。既に供給過多状態である地方都市に新たに建物を建設すれば、空室の増加を加速させることにも繋がってしまいます。
前述のようにリノベーションは元の状態よりも価値を高めていくことです。私が住んでいる函館だけではなく、地方都市にはたくさんの遊休不動産があります。過去と比較しても、空間の使い方は多種多様に存在します。空間のDIYは緩やかなブームが続いていますし、その気になればインターネットで調べながら学んでいくこともできます。
本格的なリノベーションのイメージ(写真:ぬく森/ photo AC)
リノベーションが定着していく第一歩として、施主自身が空間や建物に興味関心を持つことだと思います。そうすれば、建築家や技術者等の専門家をよりリスペクトしていけますし、空間に対する愛着もより強くなっていくはずだからです。設計や工事を依頼する側と受ける側の中間にいる不動産屋の立場として、両者がよりリスペクトしあえるようになってもらうことが肝心だと感じています。
建物から地域、そして、意識のリノベーション。遊休不動産はローカルならではの風景を生み出す可能性
リノベーションというのは、建物だけに使われる言葉ではありません。建物という「点」から、それが郡になる「面」(エリア)のリノベーションも今後の地方都市には必要とされてきます。
経済が急成長していた時代の都市計画でつくられた街は、現在のローカルに適していない場合が多いものです。特に人口が急激に減少している地方都市では都市計画そのものをアップデートしていく必要があると私は考えています。
過去の都市計画は人口を増やすため、移住者を増やすための椅子取りゲームのように感じてしまい、地域住民はどこか“他人ごと“に思えてしまい勝ちです。今私たちが考えるべきことは、人口が減っていく事実を受け止めて、そこで暮らしている住民が豊かなコミュニティを作っていくという"参加意識"を持てることだと思います。
既に街にある遊休不動産はその土地にある風景です。つまり、その場所を利用する「人」がいて成り立っています。建物を拠点に小さなコミュニティ(居場所)が生まれ、そんな活動が連鎖していくことで、その町ならではの風景が生まれていきます。
大きな資本を投入してごく一部の人たちが実行する再開発ではなく、地域住民がコミュニティへの参加意識を持てる仕組みが何よりも必要だと思います。このような地域住民の意識のリノベーションが、民間主導の街づくりにつながっていくのではないでしょうか。
遊休不動産は新しいコミュニティを生み出していく「可能性」です。
ローカルならではのアイデアやチャレンジが生まれていく土壌が既にあるはずです。私は民間主導のリノベーション(街づくり)にそんな期待を持ちながら函館という街に暮らしています。
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文:蒲生寛之
編集:簡 孝充
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