地方創生のジレンマ-「よそ者」と「当事者」の垣根について-

蒲生 寛之

政府が掲げてきた「地方創生」という言葉が流布して10年ほどが経ちます。

「自分がこれまで培ってきた技術・人脈・知識を活かして故郷に貢献したい!」

このような志が芽生えるのは、地方出身者であれば自然なことかと思います。昨今では、地域おこし協力隊や地域ブランディングを生業にする方も珍しく無くなりました。『地方を良くしたい』という価値観を持つことはある種の必然であるようにも思えます。人口減少、少子高齢化社会といった問題の深刻さは増す一方ですし、第一線で直面しているのは地方エリアだからです。
 
筆者が住む函館市も例外ではありません。平成26年に全市域が過疎地域に指定されました。(過疎地域自立促進特別措置法の一部を改正する法律)。筆者はこのような環境下にあるため、色々な立場の地方創生に関わる人たちと接してきました。
 
今回は地方創生ビジネスに属する方々をあえて「よそ者」、地方で就業している方々を「当事者」と定義させて頂き、双方が抱えるジレンマとその解決策について考えてみたいと思います。(ちなみに、筆者も30歳前後に故郷にUターンした「よそ者」に当たります。)

大きなビジョンを語るよそ者と冷ややかな当事者〜視点の相違が生み出す心の溝〜

函館

函館 八幡坂(写真:photo AC)

大都市で実力をつけてきた方は仕事の効率や資本の大きさが価値基準であることが多いです。そのため、Uターン就業を想像すると簡単に地方を変えられるという錯覚を覚えてしまい勝ちです。つまり「●●●万円のプロジェクトを回してきた自分は〇○万円程度の仕事は簡単なはずだ!」という風にです。この時よそ者は地方エリアにおいて「非日常」の中にいます。

 
一方で、地方の当事者たちは、大都市と比較して改革に反対する傾向があります。中途半端な業務改善は余計に効率が悪いことがわかっているからです。そのため業務効率が悪くても受け止め、感情を内に秘める習慣があります。弱音も履かずに、必死に生きていくことがある種のポリシーだったりするからです。
 
よそ者がビジョンを語りだした時、地域に根を張って日常を生きてきた当事者には、子供の戯言のように聞こえてしまいます。時には、立場の相違から軋轢に発展することも決して少なくはありません。日常を知らないよそ者が語るビジョンは「雑音」と受け止められてしまいますし、よそ者からすれば「頑固で効率の悪い地方の人たち」と思えてしまい議論は平行線を辿ってしまいます。
 
このような状態にあると、これまでの成功事例は全く活かされません。地方創生という言葉は絵に描いた餅状態になってしまうものでしょう。

よそ者が忘れがちなのは当事者の視点と自らの気持ちや行動を省みること。

孤独になるよそ者

(写真:photo AC)

よそ者が当事者に受け入れられるようになるまで時間を要するものです。自分自身が地域に受け入れられない(と感じる)ことに対して行き場のない苛立ちを抱えながら何年も過ごしてきた人がいます。ただし、その原因はよそ者自身にあることが多いです。

 人は無意識に過去の経験で物事を判断します。地方で受け入れられるために、まずはこれまでの価値基準で判断する習慣やプライドを捨て去る必要があります。よそ者がその地域に受け入れられていないと感じる時、実はその人自身が地域を受け入れられていないのではないでしょうか。
 
よそ者は『行動に覚悟が伴っているか?』という点を見られます。この点が当事者側には受け入れられるもう一つのポイントになります。本気で取り組んでいて地域にとってポジティブな成果に結び付けられるものであれば、よそ者は地域の当事者として認識をしてもらえるようになります。この点は地方エリアの方がよりシビアな気がします。
 
よそ者自身がその地域の人間であることを受け入れるまで、ある程度の時間がかかるかもしれません。ただし、熱く語るビジョンが本物なのであればモチベーションを維持することは容易な事でしょうし、行動の本気度は伝わっていくはずです。

地方と中央という心理的な垣根を越える必要性。

今回はよそ者が当事者に受け入れられるまでにありがちな問題を考察しました。ただし本来であれば、地方創生というビジョンを掲げたよそ者はイノベーションを起こす可能性を持っているはずです。そのためには互いに歩み寄っていく必要があります。「中央と地方」という心の垣根を作らないことが第一歩になるものかと。どんなエリアにいても、内側と外側の両方の視点をバランスよく持ち合わせられれば、その地域のビジネスは発展していくのではないでしょうか。
 
よそ者は謙虚な気持ちを、また地域の当事者たちは寛容な心をもって、さらに可能であれば内側と外側の両方の視点をもてるように積極的に旅をしたり、地域内外の方とコミュニケーションをとったりすることも良いはずです。
 
地方という同じ船に乗る運命共同体として、時には競い合いながらも豊かな暮らしを育み、そんな地域が全国に広がり成熟してきた時、この国においての「中央と地方」というこれまでの概念は薄くなっていくはずです。地方創生というビジョンを実現していくためには、よそ者や当事者という心理的な垣根を捨て去り、共に最適解を見出していく姿勢こそが重要なのではないでしょうか。

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文:蒲生寛之

編集:簡 孝充

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