催事出店までの業務プロセスを解説-アパレル・小売事業者向け-

space palette labo編集部

EC市場が拡大を続け、非対面が推奨されるコロナ渦において様々な事業者がネット販売に注力するようになりました。昨今はリアル店舗の存在感が薄れていると感じられる方も多いことでしょう。ただし、リアル店舗でしか体験できない顧客価値も存在し、通販事業者がポップアップストアのような短期催事を実施する事例も決して少なくはありません。

この記事では、アパレル事業者の方向けに催事出店までのノウハウを解説いたします。

催事とは

一概に催事といっても曖昧に感じる方も多いことでしょう。ここでは、アパレルや小売業が関わる催事に、どのようなものがあり、法的にはどのような解釈なのかを解説させて頂きます。

催事の種類と概要

国語辞典によると、催事とは特別な催し物、イベント。というのが概念になりますが多種多様なシーンで多用されています。

百貨店には、売場とは別に催事場という専用スペースが設けられており、多目的に使えるようになっています。主に週替わりで催事が行われており、催事場を区切って複数の催事が行われる場合もあります。百貨店の催事の種類は、クリアランスセール、お中元やお歳暮ギフトの受付、バレンタインチョコレートなどの季節限定商品の販売、地方の物産展、書画展・写真展などの文化催事など、多種多様です。

出典:『催事の概要とその種類』三越伊勢丹HPより抜粋

催事は実に幅広い『催し物』を定義しています。ショッピングモールやSC業態では特にフェアやセールといった商品の販売が関わるもの中心に展開がされていますが、百貨店では商業色のそれほど強くない、より文化に関わるようなものが開催されてきました。現代においては『〇〇イベント』のように具体的な内容が明記されている方が伝わりやすいものかもしれません。

短期催事と長期催事

催事を実施期間で分けると、短期と長期の二つに分類ができます。この点は明確な定義が存在するものではありませんが、短期催事は1日?3ヶ月程度を指し、長期催事は3ヶ月?半年(場合によっては年単位)で開催されているものもあります。小売事業者と館側との契約によるものですが、長期間となる場合、お客様目線では『特別な催し』ではなく、常設店舗と変わらないものと認識されてしまうことも多いはずです。特別感を醸成するには、適度な期間で入れ替わっていた方が限定感があるものなのかもしれません。

近年、短期催事をポップアップストアと呼ばれること多くなりましたが、言葉の起源こそ違うものの本質的には同じものを指しています。微妙な違いをあえて定義するなら、ポップアップストアは販売が関わることが多く、一方催事という言葉は、必ずしも販売が関わるわけではないという点なのではないでしょうか。

催事の法的な解釈

実際に小売事業者が催事で場所を借りる際に契約が必要になります。催事は一時的に場所を利用できる権利であり、利用する側にスペースを占有する権利がないこと前提になります。ここが点が常設テナントと異なる部分です。(法的な解釈を知りたいという方は、弁護士と考えるレンタルスペース運営に関わる法律という記事をご一読ください。)

ちなみに、催事出店ではなく常設テナントは、定期借家や賃貸借といった不動産契約、百貨店系であれば『仕入れ消化契約』を締結することが一般的です。場所にもよりますが、催事契約はこれらと比較して法的な拘束力も緩い場合が多いものとなります。

催事出店前に発生する業務の流れ

前述の内容を知って頂ければ、催事はどのようなものなのかを知って頂けるかと思います。ここでは、小売事業者が実際に催事出店をする際にどのような流れで業務を進めていくのかを解説いたします。

下の図は催事出店までの業務プロセスをまとめたものになります。利用する施設によって順序が入れ替わることもあるかと思いますが、大まかな流れは同じです。業務の全体像を把握する際には参考にしてみてください。

催事出店前に発生する業務の流れ

事前調査

最初に行うべきタスクは事前調査です。主に、催事出店を行う商圏の調査とそのエリアにはどんな施設があるのかというものです。いずれもインターネット上に上がっているデータを参照して定量的な数値を把握することから始めることが一般的です。

商圏調査は、主に顧客のボリュームを把握していくことが中心です。考えられる指標としては下記のようなものになります。

【商圏調査の参考指標と参照先の情報の例】

・人口総数:各自治体のHPや国勢調査等

・小売年間販売額:政府統計等のデータ

・駅乗降客数:鉄道会社の公開データ

…etc

厳密にはより細かいデータを参照されることも多いかと思いますが、最低限上記のデータ程度は把握してしておくべきものです。

次に把握しておきたいのが、そのエリアにどんな商業施設(スペース)があるのかという点です。エリアにもよりますが、百貨店や商業施設等は大まかな人の流れを把握ができるために場所を把握するだけでも役に立つはずです。昨今では、商用催事で活用ができるレンタルスペースを紹介しているサイトもあり、インターネット上でも大まかな施設を把握できるはずです。

施設毎の集客数や売上に関しては、ネット上で把握していくことは難しいものですが、よりマクロなデータは小売・卸売企業年鑑、百貨店調査年鑑等でも把握ができます。出店エリアと施設のピックアップは商圏調査において最低限必要なタスクです。また販売目標を考える際にも、役に立つはずです。

なお、催事で出店したい施設の候補は複数リストアップをしておくべきです。この点は後ほど解説いたしますが、百貨店や大型ショッピングセンター等の施設は外部企業が催事スペースを活用する場合に審査(与信など)があることが通例であり、希望の物件が必ずしも使えるわけではないからです。

そのため、予め複数の候補リストがあった方がその後のタスクが何かと円滑となるはずです。問い合わせについてはメールや電話で行うことになりますが、ここでは内容の詳細は割愛します。

条件交渉

候補が決まった次のステップで、審査(施設によって)、条件交渉の業務が発生します。

審査の内容については、施設の規模や慣習によっても異なります。例えば百貨店の場合、催事を行う際には特定の催事事業者を通じて場所を利用することが義務づけられることも多く、施設側とは直接の取引とならない場合も多いものです。審査の内容もその他の施設と比較して厳格な場合が多いものです。

審査で求められる書類としては、過去の決算書類(数年分)等を求められることが多いものです。施設側の視点から考えると、この業者は「賃料(出店料)をしっかり支払えるのか?」「出店の際に売上が見込めるのか?」ということを精査するために審査を設けています。なお、施設によってはあくまで短期催事だからということで、それほど厳格な審査を求められないこともあります。この点はその施設に、実際に問い合わせて確認をする必要があります。

問い合わせの後、審査まではの話の前後のいずれかには、出店条件が提示されるものです。催事の出店条件は大きく分けけて2種類が存在します。催事当日の売上歩合か日割りの出店料、またはその双方となる場合もあります。売上歩合の割合(何パーセント)や日割り賃料はその施設により異なります。

また、日割り賃料の場合は、催事の開催前の支払いとなることが多いですが、売上歩合の場合には実施後に売上報告を行い、事後請求となります。大型商業施設の場合は、催事事業者の出店条件は予め決められているケースが多く、交渉によって条件が変わらないことが大半です。

小規模スペースに関しては、これらの審査項目が比較的少なく、交渉によっては条件が緩和されることもあります。

契約

審査が完了した後には催事契約を締結することになります。あくまで短期催事であるため、申込書と数種類の添付書類で済む場合も多く、予約サイト経由の場合は、そのサイトの利用規約とフォーム入力程度で利用ができる場合もあります。(施設によっては口頭のみ場合もあるでしょう...)

厳格な契約書の有無に限らず、重要な点としてはエビデンスをしっかり残すということです。催事に限らず、契約ごとには事後には認識の齟齬が起こりやすいものです。利用する施設が口頭のみで済ませるような習慣があったとしても、最低限のエビデンスは残すようにしておいた方が良いかと思われます。

契約の完了前後には支払いが発生しますが、日割り賃料で利用ができるスペースの場合は利用の事前入金が通例です。大半の場合は、利用の1?2週間程度までの入金が義務付けられており、当然のことながら遅延した場合はそのスペースを利用できなくなる可能性があるため漏れてはいけないタスクです。

開催前の確認

スペースとの契約が完了後には、在庫の配送や人員の手配、搬入や設置といった当日に向けた具体的な準備が必要になってきます。ここで注意すべきこととしては、設置や搬入といった業務になります。棚や什器、トルソーといった設備は会場から借りられるのかは忘れてはいけないことです。

特にアパレルであれば、こういった設備が充実しているのか否かによって商品の見え方が全く違ってくるため、売上にも大きく影響が出てしまう要素です。当日の在庫確保と同時に、店舗のレイアウトとディスプレイ方法等は予め考えておく必要があります。

また、商業施設の場合、施設の営業時間に応じて搬入や準備を行う必要があります。厳格な施設では、ペナルティ対象になることもあるため、催事の当日はくれぐれも時間に余裕を持って挑んでください。

まとめ

今回の投稿では、催事出店までのタスクの流れを解説させて頂きました。

冒頭でも述べさせて頂きましたが、リアル店舗にしかない顧客の体験価値というものがあります。アパレルを中心とした小売業に従事されている方は、『試着してから欲しい』、『商品に触れてみたい』と言われるお客様が必ず存在することにはお気づきかと思います。

こういった基本的な顧客の願望を満たせるのはリアル店舗です。この点はいかにEC市場が進んでも、ネットがリアルな体験価値を上回るということでは決してないはずです。特にアパレル業にとってリアル店舗での催事は必要不可欠なものといっても過言ではありません。自社のステージや目的にあった場所を選び、ぜひ有効活用をして頂きたいものです。

この記事が小売事業者様のお役に立てていれば、幸いです。

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文・編集:簡 孝充

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