2023-08-01
催事・ポップアップストア
JELADOが札幌でポップアップストアを開催ーヴィンテージならではのアバウトな質感を表現する物作りー
簡 孝充
アーバンヴィンテージを提唱するJELADO(ジェラード)が、2023年7月29日、30日の2日間で札幌市内の某所にてポップアップストアを開催した。同社は大阪・東京に直営店を構え、国内のディーラー各社への卸業を中心に販売をしている。今回は代表の後藤氏にインタビューを行った。
ほとんどのアパレルブランドが大量の余剰在庫の処分方法を模索しながら運営している中、同社は発売開始前から『売切れ』となる商品が多く、顧客から愛されるブランドを構築されている。
今回はポップアップについてのみではなく、商品開発などについても語って頂いた。
ポップアップストアを開催する意図について
ー首都圏や関西で確立された販売チャネルがある中、地方エリアでポップアップストアを開催される意図は?
後藤:昔ながらのお客様と繋がり続けることが目的です。札幌はブランドをはじめた当初からディーラーをやってくれていたお店があって、そのお店が閉店してしまったことがきっかけでした。そのお店のお客様と、とても仲が良かったので自分達でポップアップをやりはじめたことが経緯になります。
札幌は昔ながらのお客さまがとても長く愛用してくれていたり、SNSで繋がっていたりもするのでディーラーさんの閉店後に『何もないのは寂しい』という声も多くて…そんな経緯ではじめさせて頂きました。
ー札幌以外に、どんな場所でポップアップを開催しているか?
後藤:自分達で場所を借りてポップアップを開催することは札幌以外やっていないです。ディーラーさんのところでイベントをやることはありますが、基本的にはその土地のディーラーさんのお店でご注文を頂いた商品を送るというスタイルです。卸と直営でバランスをとりながら運営しているような感じです。
あまり自分達が全面に出てしまうとディーラーさんが僕らの商品を販売するモチベーションも落ちてしまいますから、それほど積極的にポップアップはやっておりません。
ー自店舗とポップアップで扱う商品に違いはあるか?
最近のポップアップでは、youtubeで紹介している商品を中心に扱うようにしてます。当時卸していたディーラーさんはちょっと古い1940年代以前の洋服を好まれる傾向があったので、札幌でポップアップをやり始めた当初は古い雰囲気のものを多めに用意して持っていくようにしていました。
最近は新しいお客様が来てくださることも多くなってきたので、ヴィンテージ系の洋服を普段着用されていない方でも、入りやすいものを用意しています。
ー場所選びに基準はあるか?他社のように百貨店や商業施設で実施されないのは何故か?
※今回は商業施設ではなく、独立されたスペースで実施された。
後藤:なるべく商品を見せやすい雰囲気の場所を選んで自分達の商品の雰囲気に合う場所を選んでいます。交通量の多さよりもそういうものを大切にしています。
お客様は僕らのSNSや発信している情報を見て来てくださることが多いので、百貨店のお客様が来られても、うちの価格帯や趣向とは合わないかと思います。知らないブランドのジーパンが3万円と言われても『えっ?高いですね…何か良いものなんでしょうけど…』という程度で終わってしまうかと思います。
高いブランドばかりを扱っている百貨店であれば良いのか(客層が合致するのか)ということではなく、普段から通われているお店のブランドが好きで百貨店に行かれているのでしょうから…人通りが多いという条件で、百貨店に来られるお客様に押し付けるような接客をすることよりも、場所が商品の雰囲気に合うことを大切にしています。
商品開発のプロセスとモチーフについて
ーmade in japanのモノ作りをされている意図は?
後藤:自分達が作りたいものを細かく打ち合わせができるからです。僕らの洋服を作っていく上で、コミュニケーションがしっかりとれることが重要です。
例えば、『ミシンの間に針を何針入れるか』とか、『このパートを15針から18針入れてください』とか『キワから2ミリ内側に入れて縫ってください』とか…1ミリ単位のことをしっかりと指示をして、それをしっかり聞いてくれるというのは同じ日本人じゃないと無理ですよね。
日本はそれぞれに産地があって、その産地の人は自分達の作るものにとてもプライドを持っています。その人たちがプライドを持っているものをちゃんと依頼するということを心がけてます。その点を加味するとやっぱり日本が一番合っているんですよね。
デニム関係のものだったらやっぱり岡山で作りますし、ニットであれば東北に行くとか、革だったら姫路の方に行くとか…縫製は大阪や東京だったりするけど、この革だったらその縫製工場が連動しやすいかな…?とか。
一つの洋服を作る上で適切な組み合わせを試行錯誤しながら進めてきました。全部がチームプレーで、とても長い駅伝をやっているようなイメージです。
ー販売開始前から売切れということも多いが、海外で大量生産をする仕組みを考慮したことはあるか?
後藤:作りたいものを作る上で、結果としてそうなっている(全て日本製である)というのはあります。まず、僕たちが作りたい生地って日本でしかできないものです。ロットも決して少ないわけでは無いので、数量の問題では無いかと思います。
『この人と一緒に作ったらものすごいものが出来そうだ!』とか『この人がこの生地を使って縫製してくれたらものすごい良い顔になる』とか、うちの商品は全部がそういうものなんですよ。
僕らのデニムの生地は1日40m程度(50m以下)しか織れない素材ですからまず反物にならない…つまり経済ロットにはなりません。取引先の工場には、ずっとうちのために生地を織る機械を1台だけ用意してもらって、1年間ずっと織り続けてもらっています。ジーパンが縫える量の生地が出来上がって、ようやく(縫製工場に)送るという感じです。
縫製工場さんも兼務をされているので、仕上げてもらうのも順番待ちになっています。僕らの商品作りのプロセスは全部に時間がかかっていくので、すごく長い駅伝をやっているようなタスキを繋いでいく感じです。
作る上で物凄く細かい打ち合わせをしているので、結果としてお客様に語れることも物凄く多いです。極端な話、ジーパンだけで1時間くらい語れることがあるくらい…笑。そこまでこだわって洋服を作っていると、『どうせ買うならそういうものを買いたい』と言って頂けるお客様がいらっしゃる感じです。
ただ、こういった生産プロセスを経ているとジーパンは1年に2回程度しか作れないものです。ですので、仕上がった時にはお客様を待たせてしまうことになります。だからこそ、入荷後すぐに売切れてしまうという感じです。
生産数が少ないから売切れているわけではなく、こんなプロセスを経て、それを好んでくれるお客様がいて…その結果として売切れが続いている状態になっています。デニムが売り切れているからこそ、他の商品もすぐに買わないと売切れると思われたお客さまがその場でご購入を頂いて、それが連鎖しているような感じです。
ー商品のデザインや企画をされる上で、アイデアのヒントにされている要素は何か?
とにかく古着屋を回っているんですよね。古着屋さんに行った際に、自分が買い物をするような感覚で(実際に買い物もするんですけど)、『これ、すごいカッコ良いじゃん!』と思うものを作るようにしています。
最近のJELADOはヴィンテージの1点ものをそのまま作るというやり方をしています。レプリカを作る上でリーバイス501XXを作るとしたら、他社は501の型を作る事に留めます。
一方で、うちは『ヴィンテージならではのアバウトな部分を再現していくことで個性を出す』というやり方をしています。
501XXって同じ年代でもポケットの形も少し違うし、縫い糸も全然違うし、同じ年代に作られたものがあったとしても、当時の工場によっても…縫い子さんによっても癖(個性)があります。
本来のヴィンテージ品って、今ほど均一感を求める製品管理をされていないから結構アバウトなものです。同じジーパンであっても、ヴィンテージってそれぞれが、違う縫い糸だったり生地感になったりすることもあります。
そのことに気がついてからは、ヴィンテージならではのアバウトな部分を再現していくことで、うちならではの個性を表現していくやり方をしています。
ー他のブランドとのコラボ商品を販売されることも多いが、今後もコラボ商品は予定されているか?
これまでも一緒にやってきたブランドとは今後も一緒にやっていくと思います。RIDENG HIGHさんというカットソーだけをやっているブランドさんだったり、COLIMBOさんとは定期的にコラボをさせてもらっています。
もしお声をかけて頂いたら他ともやることはあると思いますけどね。
取材のまとめ
数年前に話題となった、『大量廃棄社会』では、日本国内において年間10億着以上の新品の洋服が袖を通す前に廃棄されている不都合な真実が描かれている。大企業や有名ブランド各社が自ら生み出した商品を大量に廃棄している矛盾を抱えているのが昨今である。
今回の取材を通じて、JELADOは同誌で語られていたような他社と対極にあるブランドであることがわかる。自分達が本当に良いと思う商品を作って、その価値を理解するお客様と末長く付き合っていく。購入されたお客様は、洋服の経年変化を楽しみながら長く愛用していく。極度に標準化させることではなく、手作業ならではの人間らしさが伝わってくる商品だからこそ、売り手と買い手の双方に愛着が湧いてくるものなのかもしれない。
まずは自社の製品に愛情を持ち、同時にその価値を受け入れる消費者も増えていく現象が企ブランドを構成していく要因でもあり、大量廃棄社会から脱していく大きなヒントとなるはずだ。
取材・文:簡 孝充