2021-07-17
ロケハン・撮影ノウハウ
映像、撮影ビジネス従事者が知っておきたい法律を解説
space palette labo編集部
撮影にはさまざまな法律やきまりが関係しています。撮ってしまってから「知らなかった」では済まされないものが法律です。撮影ロケが終わってから気がついては遅すぎるものだからです。
今回は、映像や写真の撮影等でビジネスに携わられている方向けに「知っておきたい法律と3つの権利」について解説します。
著作権と撮影の関係について
著作権とは、絵や文章そして音楽などを作った人がもつ権利です。日本弁理士会は著作権を下記のように定義しています。
著作権は著作物を保護するための権利です。著作物とは、思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいいます。
上記の引用文が示すように著作権の範囲はとても広く、絵や文章だけでなく建築や振付、コンピューターのプログラムまで及びます。絵や文章など人の手によって作られたものを著作物といいます。著作物を第三者が勝手に利用してしまえば、作った人の努力が報われません。作った人の努力が正当に活用され、努力が報われるためにつくられた権利が著作権です。著作権を得るための手続きは必要なく、作品を制作した時点で著作権は発生します。
著作権は著作権法に定められています。著作権に似た名前で著作人格権があります。著作人格権は「公表権」と「氏名表示権」と「同一性保持権」の3種類で構成されています。公表権は、著作物の公表方法を決める権利です。氏名表示権は、著作物に氏名表示の有無と方法を決める権利です。同一性保持権は、著作物の題名や内容を第三者に変えられない権利です。著作権は、著作者以外に譲り渡すことができますが、著作人格権は著作権が渡ったあとも著作者に残る権利です。
撮影には、被写体やBGMなどに著作権が強く関係しています。カメラの向こう側に「誰かの著作物」が写っているときには著作権を考慮する必要があります。(著作権は私的利用や検討の過程には適用されません。著作権法第30条)
人の手によって作られた著作物には著作権がついています。そのため、商業目的や公募展の出品時に勝手に利用することはできません。利用するときには、事前に著作者に許可を得る必要があります。費用や許可を得て初めて利用することができます。申請が必要なときは多岐にわたります。複製・展示・上映はもちろん、翻訳や口述や二次的な著作券利用まで著作権は影響しています。
しかし、永久的に著作権があるわけではありません。著作権には保護期間があります。保護期間とは、おおむね著作者がこの世を去ってから70年間が原則になっています。ただし、保護期間中であっても著作権を相続した人がいなければ著作権は消滅しています。2018年12月30日までは保護期間が50年間でしたが、現行の法律では70年間に変更されています。
肖像権が関係するときとその対処方法
肖像権とは、勝手に自分の写真や映像を撮影されることがない権利です。肖像権にはプライバシーを守る目的があります。憲法21条で表現の自由が定められていますが、表現の自由は肖像権が守られることが原則です。肖像権は法律上の規定はありません。しかし、過去の判例では肖像権は保護対象とされています。
ただ、写真や画像に写されたすべての人に肖像権があるわけではありません。肖像権は、撮影された人の社会的立場や撮影場所、撮影の目的、撮影の必要性、そして撮影のやり方などが考慮されます。人が写り込んでしまっている場合でも「あきらかに撮影される場所であることがわかる」という状況では、黙示の了承があったと判断される可能性もあります。
肖像権を侵害したまま写真などを公表してしまうと、想像以上に大変なことになる可能性があります。撮影をするときには、撮影に適している場所、正しい方法を選ぶことが大切です。そして、肖像権を侵害しない撮影のコツを知っておくといいのではないでしょうか。肖像権は、顔や容姿がわからない場合は写っていても侵害にはなりません。ピンボケで顔がハッキリと写っていなかったり、顔が判別できないほど小さく写っていたりするならば問題になる可能性は低いでしょう。もしも顔や容姿がハッキリと写っているときには、モザイクや黒塗りの加工をして肖像権の侵害を防ぐこともできます。
一番簡単な方法は、撮影時に「撮影中であることを周知する」です。肖像権の侵害を訴えてくる人は「写りたくなかったのに写された」と思っています。つまり、撮影する際に撮影中であることを大々的に示してれば、カメラの前に来ることはなく、肖像権を侵害する可能性は低くなります。この辺の注意事項については「撮影に関わる事業者が知っておきたいマナーを解説」という記事でも解説しておりますため、ご参考までにどうぞ。
施設管理権とは
施設管理権とは、施設の所有者がその場を包括的に管理する権利のことを言います。言い換えると、その施設の中に「誰を入れるか」「何をさせるか」を決める権利です。その権利の一環として撮影を禁止したり、制限をかけたりすることができるものです。具体的な例は、ホテルのロビーなどに「撮影禁止」と表示されていることがあります。これは、ホテルの施設管理権を任されている人が施設管理権を行使して施設の使い方を決めています。とくに写真撮影をするときには、施設管理者によって「フラッシュ禁止」「三脚禁止」と決められていることがあるため、注意が必要です。
重要な点としては、撮影ロケの場所となる施設に許可が取れているのか?という点です。当然のことながら、許可無しに撮影をしてしまった写真や映像を公開後に管理者から施設管理権を主張されてしまうリスクが発生してしまいます。そのため、申請するだけではなく、関係する書類は作品の完成後もしばらく保存しておく必要があると思われます。
まとめ
撮影には多くの法律や権利があります。制作した作品を堂々と公表するためにも、正しい知識を身につけておく必要があります。そして、不明点や疑問点があるときには確認をすることが大切です。くれぐれも曖昧な状態で撮影に臨と、関係者に迷惑をかけてしまい、最悪の場合には作品の公開が延期せざるを得なくなってしまったり、公開できないことすら考えられます。そのため、最低限上記のような基本的な法律はおさえておくべきものです。
この記事が、ビジネスで撮影に携わられている方のお役にたてれば何よりです。
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文:式部 順子
編集:簡 孝充