レンタルスペース運営に資格や届出は必要?知っておくべき法律と合わせて解説

space palette labo編集部

店舗や空室をレンタルスペースとして貸し出すにあたり、必要な資格や届出が気になった方も多いのではないでしょうか。どんなビジネスでも開業の際には際は、各種法律によって定められた事項を遵守する必要があります。そのため、事前に行っておくべき手続きを正しく理解したうえで、レンタルスペースを運営することが大切です。

この記事では、レンタルスペース運営に必要な資格の有無や、届出の種類について詳しく解説します。これからレンタルスペースを運営したいとお考えの方はぜひ参考にしてください。

開業時に行うべき届出

レンタルスペースを運営する際に、特別な国家資格を取得する義務はありません。ただし、業種に限らず事業主には確定申告が義務付けられており、事業の開始時に開業届を所轄の事務所に提出する必要があります。また、開業予定の個人事業主と法人格では必要な申請作業は異なります。まずは、基本となる開業届から解説していきます。

開業予定の個人事業主の場合

個人がレンタルスペースを開業する際は、所得税法第229条にもとづき「個人事業の開業届出」を管轄の税務署に提出する必要があります。申請そのものは簡単な書類を提出するだけですが、事業開始から1ヶ月以内に申請を行う必要があります。提出期限を過ぎても処罰の対象とはなりませんが、年度末の確定申告時にデメリットが生じてしまいます。この点ついては会社設立完全ガイドの情報がとても参考になります。

開業届を提出しなかったとしても所得税法に基づいて何らかの罰則を科されるということはありません。ただし、現実には、開業届を提出しない場合には、後に述べるようなデメリットが生じたり、また、開業届を提出した場合には認められるメリットを受けられないといった影響が出てきます。

引用元:会社設立完全ガイド「開業届の提出は義務?開業届を出すメリットとデメリット」

例えば、青色申告によるメリットが享受できることや、赤字の繰越が認められることなど、開業届を出すことで受けられるメリットは沢山あります。気になる方は確認しておきましょう。

登記済の法人の場合

次に法人として既に事業を営んでいる場合についてですが、開業届出は不要です。ただし、定款の事業目的にレンタルスペースの運営や、それに類する項目がない場合は内容を更新しておく必要があります。また、レンタルスペースとして活用する場所の所有形態や利用方法によっては、別途手続きが必要です。

当然のことですが、いずれの場合も年度末には確定申告を行うことは義務となります。申告漏れ等がないように、開始前にチェックをしておきましょう。

スペースを選ぶ前に知っておきたい法律と届出

レンタルスペースの運営を始める時に活用できる場所の手配が必要になります。ここでは、スペースの所有形態別に異なる届出先や注意すべき点について解説していきます。

不動産契約のイメージ不動産契約のイメージ(写真:photo AC)

建物用途と用途地域を調べておこう

物件には建築時に決められた「用途」というものが存在します。簡単に言うと、どんな目的でどんな風に利用される建物なのかという情報です。建築基準法においては「建物用途」を定め、都市計画法では「用途地域」が定められています。これらは生活者の環境を守る目的で管理がされており、基本的に定められた用途と異なる方法でレンタルスペースを運営されたい場合には「用途変更」という手続きが必要になります。

例えば、用途地域が住宅であるのに商業系、工業系の用途でレンタルスペースを運営されたい場合には要注意です。大前提として、登記されている用途と実際の用途が異なる場合には「違反建築物」と判断されてしまい行政指導の対象となる場合もあります。これらは建築基準法第48条の用途制限に定められております。実際に物件を借りる場合でも、購入する場合でも、そもそも用途制限が遵守されている建物なのか?という点は明確にしておくべき項目です。

例えば、札幌市を例にすると、公式サイトで下記のように記載がされています。

違反建築物を購入した持主にも適法化のための是正が求められるなど、法的責任が求められる場合がありますので、購入の際には、建築確認、検査済証の交付の確認や、現地確認、建築計画概要書の閲覧などにより、適法であることを確かめてください。

引用元:札幌市「違反建築物は様々なトラブルの原因」

どの程度、用途制限に厳密であるのかは自治体により異なりますが、仮に不動産オーナーや管理会社の承認が取れていても用途制限に反したスペースを運営している場合、最悪の場合スペースの運営そのものができなくなってしまう可能性もあります。

開業後に「そんなの知らなかった…」ということが無いように漏れなくチェックすべきです。正確な情報を把握するためには、法務局でその不動産の謄本をチェックしたり、自治体が公開している都市計画で用途地域を確認したりといった地道な作業が必要になります。

スペースを借りて運営する場合

自らが所有していないスペースを借りてレンタルスペースを運営する際は、貸主や管理会社にその用途を伝え、許可を得る必要があります。商用で利用する場合には、不動産オーナーや管理会社と用途について話し合う必要があります。許可を得ずにレンタルスペースを始めてしまった場合、契約違反と判断されてしまうリスクが高くなります。

そのため、事前にスペースをどう活用していくのかを貸主側に伝え、承認を得るようにしましょう。また、実際に契約を結ぶ際には必ずその旨を記載してもらいましょう。契約書への記載が無いことで、貸主側の都合を押し付けられてしまう場合も考えられます。この辺は口約束だけではなく、契約内容が正確に反映されるようにしておきましょう。

自己保有の物件を使って運営する場合

一方、自己保有物件を使ってレンタルスペースを運営する際は、借りる場合に必要な許可はありません。ただし、レンタルスペースは不特定多数の利用者が出入りすることになるため、近隣の住人やテナントへの配慮は必要です。

近隣の住人やテナントとの間で起こりやすいトラブルとして、騒音への苦情があげられます。建物用途と合わせて、床や壁の厚さ、周囲の物件との距離などを考慮し、周囲に音が漏れてしまうリスクがないか事前に確認しましょう。

スペースの用途により異なる届出先と法律

レンタルスペースの用途や業務内容によって、消防署や保健所の許可が必要となる場合もあります。ここでは、スペースの利用方法別に異なる届出先について解説いたします。

消防署のイメージ

消防署のイメージ(写真:photo AC)

消防署への申請が必要な場合

天井まで届くような高さのパーテーションで部屋を区切り、レンタルスペースとして活用する際は、消防法に基づく手続きが必要な場合があります。消防法は、建物で火災などが発生したケースに備えて、安全性を確保するために定められたルールです。消火設備や警報設備の設置、部屋から避難階段までの距離などが消防法によって決められています。

天井まで届くような高さのパーテーションは壁としてみなされるため、パーテーションによって仕切られた空間は1つの部屋という扱いになります。そのため、避難階段までの距離や経路、各種設備の配置が変わる場合は、消防署への届出が必要となります。

具体的には「防火対象物使用開始届出書」というものになりますが、内装工事が必要な場合には「防火対象物工事等計画届出書」という書類と合わせて提出する必要が出てきます。いずれも、開始の7日前(工事が必要な場合着工日の7日前)までには提出しなければなりません。

これらは火災予防条例によって定められているため、各自治体により若干の違いはありますが、概ね開始の7日前までの提出というものは義務付けられているものです。

実際に設置する消防設備や、レンタルスペースとして使う空間のレイアウトについては、所轄の消防署に確認をしながら進めていくことをお勧めいたします。

保健所への申請が必要な場合

昨今増えているレンタルキッチンやゴーストレストランなど、飲食物を販売する用途でスペースを貸し出す際は、販売する商品や提供方法によって必要な許可が異なります。これらは食品衛生法施行令第35条で管理がされており、同法では営業許可が必要な業種を34種類に分類しています。

既に加工されており、個包装をされている食品を販売するだけなら、特別な許可は必要ありません。

一方でイベントやポップアップストアのように、その場で調理したり、製造して販売する場合には、保健所の許可が必要になってきます。例えば、おにぎりやお弁当などを作って販売する場合は、飲食店営業許可が必要となり、パンやクッキーなどを販売する際は、菓子製造業許可が必要です。

これらの許可を取得するためには、レンタルスペースとして使用する場所の構造や設備が、所定の要件をクリアしていなければなりません。また、2つ以上の製造許可が必要となる場合、それぞれに使用する個室や屋外の場合には「三方囲い」を求められるケースもあります。

さらに、レンタルキッチンを運営する場合には、営業許可施設ごとに食品衛生責任者が1名が必要になります。

一概に飲食といっても、販売する商品やその状況により申請方法が異なりますため、実際に利用がされる前段階で所轄の保健所に確認していく義務があります。

また、その場で料理をする(火器類を活用する)イベントや催事などでは、保健所への確認と合わせて、消防署への確認が必要になる場合もあります。少なくとも開催の3週間〜1ヶ月前に余裕を持って関係各所との打ち合わせを進めていきましょう。

まとめ

繰り返しになりますが、レンタルスペース運営には特別な国家資格などは必要ありません。ただし、用途によって管理されている法律も必要な届け出も異なるものです。

各種申請業務は面倒に感じてしまうことでしょう。ただし、開業後に取り返しが効かない状況を招かないように、その面倒を先に済ませておいた方が良いです。今回の情報がレンタルスペースの開業を検討されている方のお役たちになれば幸いです。

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文:堀内 忍

編集:簡 孝充

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