レンタルスペース事業者のマーケティングー新規集客から顧客育成までのプロセスー

簡 孝充

レンタルスペース運営に限らず、どんな事業やサービスも作っただけで、収益が生まれるものではありません。集客はあらゆる事業者にとって悩みの種です。「作ったは良いけど、利用がされにくい…」という方も多い事でしょう。

この記事ではレンタルスペースに限らず、短期で場所貸しビジネスに従事されている方にとって、必要不可欠な要素である集客について解説させて頂きます。

レンタルスペース事業における集客の重要性

ビジネスモデルの特性上、レンタルスペース経営において集客は重要な課題です。従来型の不動産経営はアナログで対面する機会が多いものですが、レンタルスペースの利用者はそうではありません。ここでは集客の重要性について解説させていただきます。

レンタルスペース事業の収益構造

レンタルスペースは基本的に短期契約が中心となり、テナントの流動性の高いビジネスモデルです。マンション経営にしても、商業不動産経営にしても年単位で利用者と契約することが通例であるはずです。一方でレンタルスペースの運営は、日や時間単位で契約がなされていくものです。適切ではない表現ですが、空室を「在庫管理」のよな視点で捌いていく必要があります。同じ空室でも、1部屋をどう捉えるかが異なります。

従来型不動産はテナントが入居していれば、少なくとも契約期間直前まで収益が確保されるものです。対して、レンタルスペース経営は日や時間帯によって収益が変動します。満室の次の日はガラ空きで収入ゼロということが当たり前にありえるものです。その点ではホテル経営に近いビジネスモデルであると言えます。

レンタルスペースの収益を確保していくために『集客』は必要不可欠な要素です。その集客方法も従来型不動産とは大きく異なるものです。なお、レンタルスペース経営のビジネスモデルについては『従来型不動産ビジネスとレンタルスペース経営ー本質的な4つの指標で比較ー』という記事でも考察しておりますので、良ければご一読ください。

利用者の意思決定プロセスについて

従来型不動産ビジネスは通常、物件の内覧後に支払いが発生します。対して、レンタルスペース経営においてはそもそも内覧しないというのが通例です。基本的にネット上で決済までを完了すること習慣になっています。勿論、例外的に、当日現金払いであったり、事後請求というケースもあるかと思います。ただし、大半の場合は利用される事前に決済までを完了しているケースが多いものです。

ネット決済のイメージネット決済のイメージ(写真:shutterstock)

この意思決定プロセスの違いには、様々な要因があるものかと思いますが、概して集客プラットフォームの違いにあるものかと思います。不動産ポータル(検索サイト)は店舗への問い合わせまでで完結しておりますが、スペースシェアリング型のサービスはネット上での決済までを完結できるものです。仕組みの違いにより購買行動も大きく異なっているものかと。

要するにレンタルスペース経営においては、インターネット上の情報が重要になるということです。多くの利用者は前段階で決済までを完了しているため、従来の対面という方法のみで考えていては機会損失に繋がってしまうということになります。

新規集客の方法

どの程度、新規客に力点を置くのかは別として、 あらゆるスペースにとって新規顧客は必要だと思われます。ここでは新規顧客を集客していくにあたり、常套的な手段をご紹介していきます。

自社リソースによる集客

『自社リソース』とは主に、ホームページやブログ、各種SNSアカウント(twitter,instagram,facebook,LINE等)を示しています。開始してからどの程度の期間が経過しているのか?また、どの程度の頻度で投稿されているのか?フォロワーがどの程度いるのか?によって効果が見えやすいか異なるものです。誰にでもできることですが、あえてご紹介しておきたいのは大きな費用をかけずに集客ができるためです。

ブログやSNSのコンテンツが面白いからといって予約が入ることもあるかと思いますし、TVCMで告知がされているstores予約などのような仕組みを活用すれば簡単に予約サイトを作ることもできます。

使えば、決済までを完結できる仕組みもあります。特に開業当初は広告費用を捻出できない(したくない)という方も多いことかと思います。だからこそ、費用をかけなくてもできることから着手すべきなのかと思います。

スペースシェアリング型サイトへの掲載

多くのレンタルスペースはスペースシェアリングサイトを利用します。自社リソースと比較して集客力があり、掲載費用も経済的であるためです。不動産系ポータルサイトは月額で掲載費用が発生するものですが、スペースシェアリング型のサイトは成果報酬式であり、取引が発生しない場合には費用が発生しないものが大半です。取引が発生した際にのみ、取引金額の一定割合を徴収する仕組みであるため、無駄な費用が発生してしまうリスクがほとんどないものになります。

様々なサービスがありますが、サイトの利用者属性や掲載ができる物件によって異なるものになります。ちなみに、当サイト(space palette)もこの部類になりますが、ビジネスシーンで利用ができる商業スペースを紹介しているサイトになります。

既に市場には様々なスペースシェアリング型のサイトがあるため、重要な点はマッチングの精度です。自社のスペースを利用して欲しい方が居そうなサイトを利用することが肝心です。

掲載内容(クリエイティブ)について

『どんな場所に掲載すべきか?』ということも重要ですが、『どんなふうに掲載されるか?』という点も重要になります。前述のように利用者はネット上で意思決定までを行う訳ですから、意思決定がしやすくなる情報は掲載しておくべきです。例えば、平米数や坪数等の広さの情報、利用ができる機材や設備の情報、駅からのアクセス等の基本情報は漏れなく掲載すべきです。

また、写真で場所の雰囲気を魅力的に伝えていく必要があります。多くの不動産ポータル系サイトは家具等をコーディネイトしない状態で掲載がされていることが大半ですが、レンタルスペースの場合は異なります。『すぐに利用ができる場所』を探している訳ですから、セットアップが完了した状態の写真を掲載すべきです。

カメラマンに撮影してもらった画像を使ってみたところ、予約が増えた。という方も多いはずです。どんなメディアに掲載するのかという視点のみではなく、どんなふうに掲載されるのかという点にもこだわっておきたいものです。

リピーター集客の方法

大前提として、初回利用の際にある程度の満足値を得られることはリピートの条件です。だからこそ、2度目の利用がリピートの鍵であると考えて良いはず。この辺の考え方は業態やビジネスモデルによりますが、飲食業では下記のように考えられているようです。

一般的に、新規のお客さまのうち、2回目に来店してくれる方の割合は40%ほどと言われています。

(中略)

そして、2回来店した方の3回目の来店率は80%、3回来店した方の4回目の来店率は90%にまで上がるというデータも。つまり、2回目の来店にさえつなげられれば、そのお客さまがリピーターになってくれる可能性は十分にあるということです。

引用元:再来店促進・固定客化のプロモーションとは?飲食店のリピーター集客!「開店ポータルBiz」

もちろん、飲食店とスペース貸し事業は業態異なるものです。ただし、リピーター獲得における課題としてはスペース貸しビジネスにおいても同様のことが言えるはずです。

ここでは、リピート率を高めていくための常套手段を紹介していきます。

会員向けのサービスの考案

2回目以降の利用を高めることが、固定客化の可能性を飛躍的に高めていきます。換言すると、2回目以降の来店を促す施策が継続的な収益の向上の鍵とも言えます。簡単にできる施策としては、2回目に特別割引やクーポンを設けたり、回数割引、ポイントやスタンプといった方法が考えらます。

得にビジネス利用がされるスペースに限って言えば、利用者はそのエリアに目的に合致したスペースを探すのは大変です。一方で再利用する理由がないと代替えが効く場所が見つかれば簡単に離れてしまうはずです。そんな時に、2度目の特別割引等の上記のようなサービスがあれば利用される可能性は格段に高くなるはずです。

スペースの用途にもよりますが、例えば会議室やコーワーキングスペースなどであれば、ドロップインで来られた方向けにクーポンや特典をサービスするというのも良いかと。スペース貸しビジネスは基本的に事業者側が価格を決められる訳ですから、利益を計算しながら2回目以降の価格を調整するということを検討しても良いものではないでしょうか。

継続的に繋がるためのツール

次に重要なのは、顧客にアクセスできる体制をとることです。ダイレクトマーケティングの父と言われたレスター・ワンダーマンは下記のように述べています。

顧客のために常に待機していること。彼らのデータベースとなり、情報源となり、できるだけ多くのコミュニケーション手段を通じてサービスを提供すること。顧客はあなたに到達できなければ、何が必要か伝えることもできない。

引用元:『ワンダーマンの売る広告』翔泳社

現在はSNSをはじめ様々なツールがあり、継続的な繋がりを持つことが可能です。特に既存顧客に対してはできるだけ多くのコミュニケーション手段を通じてサービスを提供していくことが必要です。ツールは問いませんが、顧客にアクセスをできる環境を作っておくことをお勧めいたします。

特にビジネス目的で利用がされるスペースを提供している際には、メールアドレスを取得しておくことをお勧めします。近年、様々なコミュニケーションツールがあり軽視されてしまいがちですが、ビジネスユーザーはメールの接点が基軸です。

重要な点は、引用文にもあるように顧客に到達できるようにしておくことです。

対面のつながり

ここまで、ツールや手法を中心にお伝えしてきましたが、少し精神論に近い内容を語らせて頂きます。何が言いたいのかというと、固定化するか否かにとって重要な要素は人のつながりであるということです。一般消費者向けであっても、法人向けであってもこの点は大きく違わないはずです。

スペース貸しビジネスは場所を提供することがサービスになります。機能的な側面においては、必要な場所と設備を提供することが価値です。もう少し情緒的な捉え方をすると、利用者同士のつながりや利用者と事業者のつながりが重要になってきます。

『あの人が居るからあの場所に行こう!』『あそこの利用者は面白い人が多いからまた使おう』というように感じてもらえれば、少なからずリピートの確率は高くなるはずです。

その際に利用者と直接対面できるイベントを開催することはとても有効です。ベンチャー企業向けにコーワーキングスペースを運営していれば、ビジネスセミナーを開催しても良いですし、利用者同士の会合を開催しても良いはずです。重要な点は、利用者が参加するであろうイベントを開催していくことです。

まとめと考察

今回はレンタルスペースの収益に直結する集客について解説いたしました。一部の企業を覗き、殆どの運営事業者にとって必要なことかと思います。

特に固定客を獲得できるか否かという点では、多少効率が悪くても人を介在させることが重要かと思います。

オペレーションを効率化させる事は無料のツールでもできます。ただし、居心地の良い場所を作るためには多少は効率が悪くても人を介在させる事が重要だと思います。また、そこが中小企業の強みでもあるはずです。

今回の記事が少しでも場所貸しビジネスの運営事業者様のお役に立てれば幸いです。

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文・編集:簡 孝充

空き区画活用

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