コロナ渦だからこそ考えたいシェアリングエコノミーの本質。対面からリモート転換がもたらしたもの

川村 健治

私は札幌市手稲区出身で大学からの15年間を東京で過ごし、2011年より再び札幌に戻りました。札幌で北海道エリア初となるシェアハウス事業を立ち上げ、「最高のシェアハウスを普及させる」ことをミッションに奮闘してきました。今回は事業者の立場からシェアリングエコノミーの本質的な価値について考えてみたいと思います。

約10年前に経験したシェアリングエコノミーの醍醐味

従来型の方法では、借り手の負担が大きかった物や場所を複数人で共有することで、借りやすい仕組みを作るのがシェアリングエコノミーです。この経済圏に携わる事業者にとって、人と人との「絆」や「連帯」はとても重要な価値となります。この概念はこの10年間の日本社会には受け入れられやすい環境にあったと思います。そして、当社のアイデンティティの一つでもあります。

『それはもっとずっと前から大切な価値だろ?』

と思う方もいるかと思いますが、この10年間は特に日本で尊ばれた価値だと私は考えています。

約10年前にあった東日本大震災は人々が絆や連携の大切さを再認識するエポックメイキング的なタイミングでした。実際に2011年、その年を表す漢字として選ばれたのは「絆」でした。

私自身も3月11日からの数週間は、『本当にこの日本が滅びてしまうのではないか』と感じさせられる日々を経験してきました。ネット上で語られているネガティブな情報に踊らされていた記憶があります。東京にはいない方が良いという論調が気になって週末は逃げるように大阪に出向いたりもしました。(ホテルはどこも満室でサウナの雑魚寝部屋でしか寝る場所がなかったのでとりわけ珍しい行動ではないのかと…)

当時の私が住んでいたのが浅草のシェアハウスでした。そんな環境下で不安を和らげてくれたのは住民仲間と一緒に過ごす時間でした。一人でいると不安に押しつぶされそうでしたが、シェアハウスの仲間たちと語り合うことで、ポジティブになれた気がします。震災をきっかけに節電のため、住民が共用リビングに集まるようになりました。それまで接点が少なかった住民と話をする機会にもなり、そのおかげで震災への不安がどんどん和らいでいきました。

こういった人との絆や連帯感が私の考えるシェアリングエコノミーの本質的な価値です。後に私が立ち上げた札幌でシェアハウス事業のアイデンティティであるとも言えます。

突然やってきたコロナウィルスがシェアリングエコノミーに与えた影響

ソーシャルディスタンス(写真:Kosica-A/photo AC)

2020年に入ってすぐにコロナウィルスに関するニュースを目にしない日は無くなりました。成長産業として世界経済の牽引役の一つであった「シェアリングエコノミー」は、コロナ渦に一変。民泊最大手のairbnbも配車アプリの代表格であるuberも苦戦を強いられているようです。

「絆」がその年を表す漢字だったことがまるで嘘のように、三密回避・リモートワークが重要視されるようになり、人と人が接触しないことを推奨されてしまうようになりました。大袈裟かもしれませんが、それまでの正義が悪に転換されるようにすら思えてしまいます。

私が運営しているシェアハウスでは常に推奨してきた人同士の交流も、「控えてください」というアナウンスを発する他なく、パーティーやイベントの開催も出来ません。3密回避が謳われる世の中で、シェアハウスは危険性を伴う施設の代表格と解釈されてしまうことすらあります。

この10年大切に育ててきた価値も、過去の経験も、根底から否定されしまうのではないだろうか…そう感じる日も少なくはありません。心無い報道への怒りや終わりの見えないコロナウィルスとの戦いに絶望感しそうになってしまう日もありました。

会えないから会いたくなるのが人の本質。あらゆる人が対面の価値を再認識

コロナウィルスの影響が長引くにつれて、『こんな時だからこそ、逆に絆や連帯感が試される時なのではないか…』と感じることも増えてきました。緊急事態宣言以降には多くの企業で在宅ワークやオンラインミーティングが採用されました。通勤や移動をしなくてもOKのため、時間的な効率が上がった人は多いはずです。私自身も「案外、悪くないな。いやむしろ良いかも…」と感じていました。

しかしながら、リモートワークが長期化していくにつれて、その欠点も強く認識されるようになりました。オンラインミーティングはいかに効率が良くても、誰にも対面しない仕事は少ながらず疎外感やストレスの原因になってしまうようです。やはり人は対面してく事が大切だ感じます。

当社もしばらくリモートワークを推奨した後に、徐々に対面する機会を増やしていきました。しばらくぶりに全体会議をやった時は、本当に安堵を覚え、絆を実感しました。今まで当たり前だったリアルな接点への価値や喜びを感じることができました。

対面する機会が減るとリアルな接点の価値が上がる傾向もあります。リモートでは経験できない価値が対面にはあるからです。リモートワークは活用しつつ、たまにはリアルで対面というのが世の中でもスタンダードになりつつあります。緊急事態宣言が終わり、身近な方と久しぶりにリアルで対面する喜びを感じた方は多いはずです。そんな感情は人間にとってとても自然なことかと思いますし、近い将来にその反動(リアルで対面を控えていた事への)は必ずやってくると思います。

対面する機会が減少し、3密回避を強く謳われても絆や連帯が必要とされない世の中がきたわけではありません。むしろ、たまに会えるからこそ価値を実感しやすくなりました。当社が大切にしてきたシェリングエコノミーの本質とも言えるカルチャーを守りつつ、今後は新たなビジネスチャンスは探していきたいと思います。

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文:川村健治

編集:簡 孝充

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