#04 リーシングで交わされる契約とその業務プロゼスを解説

space palette labo編集部

このシリーズでは、10年以上の不動産営業経験者が自身の経験を元にしたノウハウを提供します。今回は特に実務でリーシングに携わられている方は必ず知っておきたい「契約」についてです。

リーシング業務の中で「契約」は最も重要な業務の1つです。専門用語が多く、難しいと感じている方も多いはずです。ただし、現場で多用されている契約はある程度限られておりますし、全体の流れを知っていれば少なくとも問題は未然に防げるはずです。

今回は契約に対して苦手意識のあるリーシング担当者は、是非ご一読ください。

リーシング業務に必要な契約の種類

一般的にリーシングの現場では「普通借家契約」と「定期借家契約」、「催事契約」の3種類の契約を状況に応じて締結します。契約の種類によって、使用上の制限が設けられることもあるので、注意が必要です。契約までのプロセスを理解するにあたり、この3種類の契約の理解が必要不可欠です。まずはこの契約の種類から解説させて頂きます。

定期借家契約と普通賃貸借契約の違い

定期借家契約とは、予め定められた期間の満了により契約が満了する契約のことを言います。商業施設とテナントの間で結ばれる契約期間としては2年から5年の範囲で結ばれている場合が多いです。また、借りた側は契約期間中は借り続けることが前提になっており、期間内の中途解約は原則としてできないことが前提です。

一方、普通借家契約は、契約期間が満了しても契約が更新されることが前提というもので、中途解約は解約したい旨を告知することで可能となります。普通賃貸借契約は店舗や商業施設ではなく、住居を借りる際に結ばれているのが一般的です。端的に説明すると、この契約更新と中途解約の2点が概念これらの契約の相違点になります。

前述の通り、商業施設とテナント間で結ばれる契約は定期借家契約で結ばれることが一般的です。というのも、住宅系物件と比較してビジネスモデルが異なり、商業施設は市場の変化に影響を受けやすいものです。多くの商業施設は固定賃料のみではなく、売上歩合が発生する仕組みを採用しています。売れるテナントはそれだけ施設の収益性が高める要因となり、売れないテナントは収益の圧迫要因となりかねません。常に変化するマーケットの動向に応じて、テナントの新陳代謝が必要になるものです。

これらの要因を加味し、原則として途中解約と契約更新が前提となっていない定期借家契約の方が店舗や商業施設系の物件には適していると考えられています。

定期借家契約を締結するときの注意点

定期借家契約を締結する為には「借地借家法38条」で定められた規定を満たす必要があります。下記の条件を満たせなければ法律上、普通借家契約と解釈されてしまうため、注意が必要です。

1. 賃貸借について一定の契約期間を定めること

2. 契約の更新がないことを特約に明記すること

3. 公正証書等もしくは書面により契約すること

4. 契約の前に、定期借家契約であることを書面で説明すること

5.契約満了の6カ月前までに契約終了の通知を行うこと

実際に定期借家契約を結ぶ際には、上記をしっかり理解しておく必要があるため、借地借家法、定期建物賃貸借等(第38条)の条文は上記と合わせて一読しておくことをお勧めします。

催事契約について

リーシングの現場では、前述の契約以外に「催事契約」を締結する場合もあります。催事契約とは、商業施設の共用部や空きスペース、

開いている区画の一部を貸し出しているもので、ショッピングセンターのエスカレーター前などのワゴン催事のようなものに該当する契約です。

催事契約は定期借家契約や普通賃貸借契約とは異なり、借地借家法に該当しない契約になります。そのため、宅建士の資格は必要ありません。簡易な契約書を持って契約を行うのが通例となっており、保証金の預け入れがなく、重要事項説明が必要ないからです。契約における敷居が低いため、貸主、借主の双方にとってテストマーケティング的な位置付けです。契約期間は短期(1日~6カ月以内)で賃料設定は、物販は売上歩合、イベントは固定の賃料を設定することが多いのが特徴です。

契約のイメージ

契約のイメージ(写真:まぽ/photoAC)

一方で、重要事項説明等を行わないことが多いため、借主側が契約条件を理解していないために起こる問題も決して少なくはありません。1週間以内で行われる催事ではそれほどありませんが、半年近くにわたって開催している催事の場合、テナント側が期間終了後も「退去したくない」という意向を示してくることなどです。よくある言い分としては、「設備投資や人件費にかなり投資し来たのに今更出て行けなんて…」というものです。

このような問題は、事前説明が無いことに起因するケースが大半です。そのため、ある程度の長期催事になる場合は契約条件を曖昧にせず、テナント側に明確に伝わるようにコミュニケーションを取っておくことが肝心です。

契約までのプロセス

募集を開始し、入居希望者が見つかった際に、リーシング担当者はその企業と契約締結に向けて動きだします。申し込みから契約までの対応で、「企業の担当者に過不足なく情報を伝える事」を意識して業務にあたる必要があります。では、どのようなプロセスを経て、契約に至るのか?ポイントを交えながら順に解説していきます。

申し込み、審査

まず最初に、企業から入居の意識確認ができた場合、「入居申込書」に記入をお願いしましょう。入居申込書とは、入居の意思をオーナーに伝える書面の事で、この書面を提出して初めて「テナントへの入居の意志がある」と判断します。

下記の必要書類を事前に用意してもらい、入居申込書と合わせて物件オーナーに提出しましょう。

・法人登記簿謄本(3カ月以内のもの)
・会社概要書(パンフレットやHP)
・決算書

...etc

管理会社によって、別書類が必要な場合もあります。

オーナーは、この情報を基に「入居を許可して大丈夫か」など審査していきます。申し込みと同時に手付を預かる場合には、預かり証の発行が義務となります。

この時、対応する企業側の担当者が、契約締結までの窓口となるケースが殆どです。円滑に事を進める為に、コミュニケーションを密にしておくことをオススメします。

入居に向けての打ち合わせ

オーナーの審査が通ると、契約締結に向けて、企業の担当者と打ち合わせを始めます。打ち合わせでは、入居日、工事日程や広告、契約の内容などを話し合います。リーシング担当者は「営業開始予定日」から逆算し、オープンに向けて、工事や契約のスケジュール管理を徹底しましょう。

その他に、企業から色々と質問があるはずです。例えば、よくある質問として

・内装工事の許可できる規模や範囲
・バックヤードの使い方やルール
・ニューオープンに向けた広告
・設備の導入
・用途変更の有無

などが挙げられます。上記の5つは事前に調査して、すぐに回答できる様に前もって準備する必要があります。判断が付かない質問を受けた場合は、一旦持ち帰るなどして調べた上で確実な解答をしましょう。

業務プロセスのイメージ

業務プロセスのイメージ(写真:shutterstock)

また、契約相手となる企業は社内稟議を通して、初めてお金を動かす事が出来ます。仲介手数料や保証金など契約に必要な費用は項目別にリスト化しておき、打ち合わせの時に渡しておいてください。

そうする事で、契約までの流れをスムーズに運ぶことができます。この時に契約に必要な書類も、事前に伝えておくと良いでしょう。では契約に必要な書類はどれ位あるのでしょうか?


契約に必要な書類

契約に必要な書類は下記の通りです。※管理会社の方針によって異なります。

・現状変更工事申請書(内装工事許可書)
・物品搬入申請書
・緊急連絡責任者届
・電話架設許可申請書
・法人登記簿謄本
・印鑑証明書
・連帯保証人の印鑑証明書
・損害保険加入証明書

入居する企業の規模によって、提出する書類が変わる場合があります。個人事業主や中小企業の場合は「事業計画書」を添付してもらう事が多いです。必要書類に関しては、すぐに用意が出来ないものが多いので、漏れがないかチェックが出来るひな形を作成しておくと良いでしょう。

契約書面等の準備

打ち合わせを済ませた段階で、「契約書」と重要事項説明の為の「重要事項説明書(以下、重説)」の作成に取り掛かります。

重要事項説明とは、不動産会社等(宅地建物取引業者)が土地・建物の売買や仲介などをする際に、「契約前に行うことを義務付けられている説明」のことです。重要事項説明では下記の内容が説明されます。説明担当者は宅地建物取引士で、重要事項説明書に記名・押印し、説明時には宅地建物取引士証を提示しなければなりません。

引用:suumo『重要事項説明の意味・解説』
 

企業は契約書に押印する前に、その内容や文言が適切かどうか、必ず前もって確認します。リーシング担当者は、打ち合わせの内容を反映した契約書と重説を手早く作成し、担当者に書類を送付しましょう。場合によっては、会社の仕様に合せた書面に書き変える事も頻繁にあるので、柔軟に対応しながら、やり取りを行ってください。

最後に、契約事項や特約に漏れがないか?重説に間違いが無いか?最終確認をしましょう。

内容の確認は担当者一人でのチェックは限界があるものです。複数人で確認し合って、内容に不備の無い様、気を配りましょう。

契約締結

全ての準備が整えば、賃貸借契約を締結する前に重要事項説明を行います。契約相手の企業に宅建士がいる場合は、重説を省略できます。ですが、いない場合は全て読み上げ、質問があれば全て答えなければいけません。時間がかかる作業になるので、余裕を持たせたスケジュールを組みましょう。

リーシングに関しては、事前に重説を送付しておく事で「IT重説」を行うことも可能です。

テレビ会議等のITを活用して行う重要事項説明を言います。IT重説では、パソコンやテレビ、タブレット等の端末の画像を利用して、対面と同様に説明を受け、あるいは質問を行える環境が必要となります。

引用:「ITを活用した重要事項説明 実施マニュアル」国土交通省
 

IT重説のメリットとして、移動などの負担を無くしたり、記録に残すことが容易なのででオススメです。コロナ渦では、特に対面の回数を控えることが先方への配慮という側面もありありますので、zoomなどのITツールを活用すると良いでしょう。

契約書への押印は、社印などの持ち出しが出来ない事が多い為、その場ではせずに、会社に持ち帰って(送付して)済ませる事が殆どです。なので、押印する箇所には付箋、または鉛筆書きで印や指示を書き入れると良いでしょう。

契約書と重説に、全ての押印が完了すれば、賃貸借契約が締結されて、契約に関する業務が終わります。後は、広告の手配や、工事の進捗などに目を向けて、オープンの日まで気を抜かずに業務に向き合ってください。

まとめ

今回はリーシングにおける最も重要な業務「契約」について解説してきました。商業デベロッパー業務に携わる方は宅地建物取引士の資格を保有していない方も多いかと思いますが、契約の理解はリーシングに携わる方全員にとって必要なことです。また、重説を行えるのは資格保有者のみです。資格を保有していることで業務の幅が広がるはずなので、資格を保有していない方は受験を検討してみても良いかもしれません。

今回の記事が少しでもデベロッパー業務の従事者様のお役に立てれば幸いです。

---------------------------------------------------------------------------

----------------------------------------------------------------------------

文:楠本 貴之

編集:簡 孝充

関連記事