#03 地方エリアのリーシング担当が持つべき視点ー地域コミュニティとの連携についてー【デベロッパー営業の基本 ノウハウ】

space palette labo編集部

10年以上の不動産営業マン経験者がノウハウを提供する連載シリーズ。今回は「地方エリアのリーシング担当が持つべき視点」です。特に地方エリアでリーシング業務に携わられている方にはご一読を頂きたい内容です。

 人口減少が進む地方都市では、空室問題はますます深刻になっていきます。そんな時期だからこそ、地域コミュニティの存在に目を向けて頂きたいと考えています。

地方で活躍しているリーシング担当者様はぜひご一読ください。

空室の多い施設のPMが持つべき視点

営業におけるマインドセット

空室の多い施設のリーシング担当が持つべきマインドセットとして、「可能な事は受け入れる」という意識を持つ事が大切です。「入居希望者の要望」は、PMの負担となる事も多いですが、受け入れる事が出来ればリーシング成立に近づくはずです。

特に空室の多い施設の場合、担当者へのテナント満足値が低いことも多いはずです。如何にしてテナント企業に「融通の効く担当者」だと感じてもらえるかが重要な鍵になります。そのためにはテナント企業の視点に立って物件オーナーと交渉することが必要です。そのプロセスは入居(出店)希望者にも既存テナントにとっても、重要な要素であると言えます。

オーナー目線での判断基準となるのがNOI

サービス精神を持つことは重要でありつつも、要望の受け入れにも度合いがあります。一方的にテナントの要望を聞いているだけでは、オーナーの信頼を失ってしまいかねません。では、どんな判断が必要になるのでしょうか?一般的にはNOI(Net Operating Income)を基準に判断しています。ちなみにNOIとは家賃収入から、実際に発生した経費(固定資産税や管理費)を引いた実質の利回りの事を指します。

物件オーナーや投資家はNOIを基準に判断していることが多く、重要な判断材料です。この視点を持てないPMはオーナー側からすると、「何のために管理を委託しているのかわからない」と思われてしまいます。

PMは両者(オーナーとテナント側)の視点のバランスを取る役割を担っています。入居者の要望を受け入れる姿勢は持ちつつも、要望の受け入れ度合いにはNOIを判断基準とすることが重要です。

リーシングリスト作成時に考えるべきこと

テナントミックスの視点

もう少し実務的な話題にも触れさせて頂きます。新規のリーシングリストを作成する前に、既存の入居テナントを洗い出し、施設全体のバランスを考えます。その際に、重要なのがテナントミックスの発想です。ちなみに、テナントミックスとは下記のように考えられています。

テナントミックスとは、商業集積活性化の基本となるコンセプトを実現するための、最適なテナント(業種業態)の組み合わせのことを言います。

出典:中小企業庁 消費者にとって魅力なまちづくり

現在のテナントに偏りは無いか?また、足りていない業種のテナントは?といった点を加味し、現在の施設にとって最適な組み合わせを考えていく必要があります。

地方施設でテナントミックスを考える時は、「そのエリアの特色を盛り込む」ことを忘れてはいけません。その地方に根付いた文化や習慣が消費活動に大きく影響を及ぼすからです。エリアの特色を捉えたテナントを誘致できれば、日常的な集客数の底上げにも繋がっていくからです。

テナントビル空室のイメージテナントビル空室のイメージ(写真: photo AC)

テナント企業側の視点(出店基準値の理解)

実際に営業に訪問する前に、リーシングリストが必要になります。その際に、テナント側の視点に立つことが重要です。そのためには、テナント企業の出店の基準となる項目を理解しておくべきです。

具体的には、

・施設(物件)の集客力と賃料水準

・近くに競合、または自社テナントがないか。

・施設と自社ブランドのイメージが一致するか。

…etc

などが、テナント企業が施設を選ぶ基準となります。

特に地方エリアへに大きなテナントを誘致していく場合、テナント企業の基準値に満たない事が多いのが実情です。営業候補となるテナントをリストアップをしていく際に、話題の小売業や有名店に気になってしまい勝ちです。だだし、そのためには施設の集客を足元から強化していく必要があります。

空室が多い商業施設が大きなテナントを誘致するために、まずは物件のそのものの価値を高めなければなりません。その際に、テナント選定に「地域コミュニティとの連携」という発想です。

「地域コミュニティとの連携」とは何を指し、施設にとってどんなメリットがあるものなのでしょうか。この点は、事例を交えてご説明したいと思います。

地域コミュニティ連携の重要性

地域コミュニティとは「地域の人々が共同体意識を持った集団」の事を指します。特に空室の多い商業施設は地域に住む人との繋がりが希薄なことが多いものです。だからこそ、人との繋がりを築く事が可能なテナントに入居を検討してもらい、地域と共に築き上げる商業の場を構築していくべきなのです。

こんな発想でリーシングリストを再作成すると、下記のようなテナントが新に候補として挙がってきます。

・地域で人気の飲食店や喫茶店

・ジムや習い事などスクール系の業態

・保育園や託児所など

・医療や公衆衛生に密接する業種

…etc

その地域に愛されて根付いているものや、グループで利用ができるもの、または生活に必要とされる店などです。人口減少社会では、これまでの方法で利益を得る事が難しくなってきました。そんな現実を受け入れ、従来とは異なる視点でテナントを誘致することは、地方の施設運営には効果的です。

大手デベロッパーの施設でも、地方では保育園を併設した事例もあります。

三井不動産は7日、岡山県倉敷市で運営する三井アウトレットパーク倉敷内に4月から保育園を開園すると発表した。人手不足に伴う採用難に対応し、従業員が子育てしながら働きやすい環境を整える。全国に13ある三井アウトレットパークでの保育園設置は初めて。

出典:日本経済新聞「三井アウトレット倉敷に保育園 雇用確保へ子育て支援

上記の事例が示すように、地方の商業施設は従来と異なる視点でテナントを誘致していくということが必要なのかと思います。売り上げ歩合の稼ぎ頭となるような大型テナントや有名店にばかり目がいってしまうことは、リーシング担当としてある意味で当然かと思います。先にも触れたように、理想と地方の現実には乖離があります。

地方エリアは働く人材の確保が難しい状況です。当然のことながら、働き手のいない商業施設に、お客様は集まりません。だからこそ、まずはその施設で働く方達に働きやすい環境を提供することが必要なのでは無いでしょうか。前述の事例は、そんな地方の文脈を加味したテナントミックスの事例なのかと思います。

まとめ

地方のリーシングについて「地域コミュニティとの連携」等を通じて施設の価値を高めることついて解説をしてきました。商業不動産のPMは、空室を埋める事だけでなく、地方の街づくりの役割も担っています。街づくりの観点で良い結果を見込めるのであれば、それは施設全体の利益も向上していくはずです。

商業と育児という分野はなかなか結びつきにくかったものです。ただし、人口減少が進む地方エリアだからこそ、顧客視点に立ち返る必要があるものです。日常的な利用者が増えていけば、施設の価値も高くなります。そうすることで、過去には相手にされなかったようなテナントが施設を選んでくれるかもしれません。

このコラムが少しでも地方エリアのリーシング担当者様のお役立ちになれれば幸いです。

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文:楠本 貴之

編集:簡 孝充

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